第23回 「挙棺念誦」に込められた願い
霊龕を挙して荼毘(掩土)の盛禮に赴かんと欲す。
仰いで清衆を憑んで諸聖の洪名を誦す。攀帷を用表して、上覚路を資助して念ず。
読経供養を重ね、棺に納められた故人様をお送りする「出棺」が近づいております。「出棺」のことを、「挙棺」とも申します。これは、「棺を挙げて動かすこと」を意味しています。
そうした出棺に際し、故人様を火葬に付す前の最期の儀礼として営まれる儀式が、「挙棺念誦」です。ここでは、故人様始め縁者全員が成仏(人間性の完成)することを願い、身心共々に清浄なる出家の者たちが仏様(諸聖)のお名前(洪名)をお唱えすることが宣言されます(「仰いで清衆を憑んで諸聖の洪名を誦す」)。すなわち、ここでは、棺を持ち上げて、故人様を火葬の儀を行う会場に運ぼうとする様が描かれているのです。
ちなみに、「龕」とあるのは、「棺」のことです。そうした龕に故人様をお納めするということから、「霊龕」と申し上げます。そんな霊龕を挙して、「荼毘(掩土)の盛礼におもむかんと欲す」ということですが、「荼毘」とは、故人様を火葬に付すことです。「掩土」は「土葬」のことです。第4回でも触れましたように、近年は火葬が一般化していますので、ここでは「荼毘」という言葉が用いられます。
そして、「攀帷を用表して上み覚路を資助して念ず」とあります。「攀帷」という難解な語が出てまいりますが、“攀”とは名残惜しむこと、“帷”とは別れることです。故人様との別れを惜しむと共に、故人に対する弔いの気持ちが「攀帷を用表して」の一句に表れているように感じます。次に「覚路を資助して」ですが、「覚路」とは悟りの道です。すなわち、故人様がまっすぐに仏の悟りに向かって、その道を歩むことを願っているのです。
「出棺」という、故人様との別れの場面に先立ち、惜別の念を込めて、故人様の成仏を願って、「挙棺念誦」はお唱えされるのです。