第26回 「浄土へ② -鼓鈸三通」
曹洞宗の葬儀や法要に参列したことがある方ならば、僧侶が「手磬(ハンドサイズの小型の鐘)」・「太鼓」・「鐃鈸(シンバルのような形をした仏具)」を「チン」・「ドン」・「ジャラン」と大きな音を立てて打ち鳴らしているのを見聞したことがあると思います。これは「鼓鈸三通」と申します。死者の魂を、音楽で出迎えたり、お見送りしたりするという意味があります。
第24回「内諷経」でもお話させていただきましたが、今や葬儀社の会館で葬祭の儀式の全てが行われるようになりましたが、かつては自宅や菩提寺等で行われ、内諷経をお勤めした後、葬列を組んで、故人様を葬祭場にお送りしました。その際、故人様をお見送りするという意味から「鼓鈸三通」の鳴らしものを行っていたそうです。
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鐃鈸(左)と太鼓(右) |
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このときにお唱えするのが、「大宝楼閣善住秘密根本陀羅尼」です。生前の悪行を悔い改め(懺悔)、仏縁によって、仏戒を身につけ(授戒)、身心共々に清浄になったが故に、故人様は「大宝楼閣」(仏の世界、悟りの世界)、すなわち、「浄土」へと辿り着くことができたと解釈すべきでしょう。つまり、「故人様の成仏」を願う葬祭の儀において、「大宝楼閣」に故人様をお送りすべく、太鼓や鐃鈸を鳴らすという意味があるのです。
話のついでに、もう一つ触れておきたいのが、「右遶三匝」です。これは、故人様をお納めした霊龕の周りを、参列者が右に三巡りすることです。昨今のような、葬祭会館で行われる一般の方の葬儀においては、「右遶三匝」のような場面は見られなくなりましたが、僧侶の葬儀では今も行われています。ちなみに、この習慣はインドの礼法に倣ったものだと言われています。インドでは相手に敬意を示す際、その人の周りを右に回るという習慣があるそうです。それに倣い、仏様となった故人様に敬意を表し、その場にいる人々が故人様の周りを右に三度回るのです。
葬祭の形態や意識が変化行く中で見られなくなってしまった「右遶三匝」の習慣ですが、せめて、「大宝楼閣~」の読経と、「鼓鈸三通」の鳴らしものをしっかりと行いながら、皆で故人様への敬意を欠かすことなく、この場面が故人様が浄土に趣き、その成仏を願うものであることを意識しながら、儀式をつとめさせていただきたいものです。