第32回「送龕回向 ―火葬に向けて―」
故人様の成仏を願って焼香が捧げられた後、僧侶の読経がストップ、次の回向文がお唱えされます。
上来、念誦諷経する功徳は、新帰元(戒名)に回向す。
伏して願わくは、荼毘(掩土)の次いで、報地を荘厳せんことを。
この回向文は「送龕回向」と呼ばれるものです。読経供養の功徳を故人様に巡らせ、真っ直ぐにお釈迦様始め亡き人々が仏として生かされている仏界に赴くことを願う回向文であるということです。すなわち、故人様の成仏を願う回向文であるということです。ここには、祭壇で眠る故人様に掌を合わせ、香を焚きながら(焼香)、故人様の成仏を願った会葬者や、読経を通じて、故人様の成仏を願った導師様や伴僧(お伴の僧侶方)といった、故人様とご縁のあるすべての人々の誓願の集大成ともいうべきものが込められています。
また、「送龕(棺を送る)」という言葉や、回向文中の「荼毘の次いで」という言葉に着目したとき、この回向文には荼毘(火葬)に向けて、ご遺族様たちの心の整理整頓を行うという重要な役割を持った回向文だとも捉えることができます。
そうした故人様の成仏を願い、いよいよお別れのときが訪れたことを指し示す「送龕回向」がお唱えされた後、堂内には故人様をお送りすべく、再び「鼓鈸三通」の調べが響き渡ります。