第48回 「正法興隆(しょうぼうこうりゅう)

正法(お釈迦様のみ教え)によって、自らの言動を調え、
平和な世の中を目指していくことによって、次世代に明るい未来を残していく

「お寺の住職」というお役目をいただいて、15年目を迎えようとしています。今一度、「住職の使命とは何か?」という問いを我が身に投げかけてみたとき、今回、提示させていただいた「正法興隆」という言葉が真っ先に出てまいります。「正法」は言わずもがな、「お釈迦様から脈々と伝わるみ教え」に他なりません。すなわち、この世の真理の核心を突いた正しきみ教えであり、私たちがいただいたいのちを生きていく上で欠かせないみ教えであるということです。

その「正法」を、この世に広めるべく、お寺を舞台として、日々、坐禅や経典・祖録の修学、掃除を始めとした境内美化・維持活動(作務(さむ))といった仏道修行に勤しむのが、我々、住職たるものの役目・使命なのです。「興隆」とは、こうした住職の役目・使命を表す言葉を意味します。正法を興隆させることによって、平和で人々が幸せを感じることができる世の中を目指していくのが、住職たるものの役目・使命なのです。

これまで、修証義第3章・受戒入位の中で、「住持三宝(じゅうじさんぼう)」という言葉に触れた際に、「住職」とは、「住持職」といって、仏法僧の三宝に帰依し、世間に広めていくことによって、仏のいのちを現世のみならず次世代にもつないでいく役目があるというお話をさせていただきました(詳しくはこちらをご覧ください)。また、「教授戒文」では、「仏の慧命(えみょう)嗣続(しぞく)する」という表現がありました(詳しくはこちらをご覧ください)。これも同様のことを言い表しています。お釈迦様のみ教えを受け継いだものの役目は、様々な表現を用いながら、仏典の随所に登場していることに気づかされます。

私たち一人一人の行いは決して、大きなものではありません。しかし、事の大小に関係なく、一人一人が正法興隆を意識していくことによって、現状がよい方向に進むばかりか、次世代にも明るい未来を残すことができるようになっていくのは確かです。私たちが正法興隆を意識するというのは、日頃から自らの言葉や行いを調えていくことに他なりません。今の私たちの日常は過去に生きた先人たちの言動の影響を受けて成り立っています。そして、今が過去になるとき、未来の良し悪しは今の私たち次第ということになるのです。

ちょうど今、ロシアによるウクライナ侵攻が、世界中を震撼とさせています。こうした世界情勢に目を向ければ、私たち一人一人がいくら我が身心を調えたところで、早急に世界の平和が立て直せるものではありません。確かに、周囲に目を向ければ、私たち一人一人の努力だけでは解決できない問題も多々あります。しかし、たとえ小さなことであっても、一人一人が意識して、行動に移していくことによって、次第に良い方向に変化していくのです。

コロナウイルスにロシアのウクライナ侵攻と、私たちは日常を脅かす存在に取り囲まれながら、不安の毎日を過ごしていますが、今一度、「正法興隆」という言葉の重みを我が身にしっかりと刷り込んで、住職15年目のスタートを切りたいものです。