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土壌汚染と洗浄に関する話

能書き:最近、新聞紙上を土壌汚染に関する記事が載ることが多くなってきた。土壌汚染対策法も国会で成立し、 いよいよ土壌汚染への関心も高まっているが、果たして現状はどんな物であろうか?筆者の知る限りをここで紹介する。

1.土壌洗浄市場の現状
市場規模はトータルで13兆円、現在の市場は年間1〜2百億円、今後年間1〜2千億円規模まで拡大し、その後縮小均衡すると言われている。
受注企業は、主にゼネコンであり、その他に調査専門会社、環境プラントメーカー、水質浄化会社、金属会社が多く、門外漢もかなり参入している。
土壌汚染は大きく分けて3種類ある。汚染源で分けた場合にはVOC(揮発性有機塩素化合物)、 重金属、油類。汚染対象で分けた場合には、土、地下水、土中空気となる。土壌という言葉は本来地表面を指すものであり、 大地の汚染を考えた場合には上記3つの汚染があるため、本来は地質汚染と言うべきとの指摘もある。また、地下水・土壌汚染と表現する向きもある。

地球上の環境汚染を考えた場合、その対象は空気、水、土が考えられる。高度成長時代に生産効率だけを追った結果、環境汚染(公害)が蔓延し、その対策として公害防止を目的とした法整備が実施された。1968年には大気汚染防止法が成立、施行され、1970年には水質汚濁防止法が成立し、翌年施行された。法案成立時には規制値が甘いとか問題点がいろいろ指摘されたが、年を追うに従い整備されていき、現在はそれなりの環境汚染防止効果を発揮している。またそれに伴い技術の開発や管理者の育成が進んでいる。ところが、こと土に関しては大気や水に30年以上も遅れて、ようやく本年土壌汚染対策法が成立して2003年に施行されることとなった。このため土壌汚染の対策技術や態勢は大気や水から大きく後れを取っており、今後の技術であると言える。

2.過去の土壌汚染対策
土壌の汚染に関する法整備は、実は大気や水と同時期に試みられている。「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」が1970年に成立し、 翌年施行されているのである。この法律は名称からも分かるように農地に限定したものであり、インパクトは限定的であったと言える。 ちなみにこの頃の土壌汚染対策とは汚染土壌の上に綺麗な土を盛り土し、作物に汚染物質が影響しないようにするといったもので、 到底汚染浄化とは考えられない手法で、パッチワークのようなものであった。実は筆者は環境工学を大学で専攻しているのであるが、 当時も大気、水質、振動騒音といった項目しかなく、農用地の土壌汚染対策などは端から無視されていた。
この時の「農用地の土壌の汚染」とは、イタイイタイ病に代表される、農用地の汚染拡大とそれに伴う農作物の汚染が原因となった公害の拡大防止を狙った物である。汚染された農作物を食べると人間に害が及ぼされるため、これを防ごうという訳である。このため、土地自体が浄化されなくても、作物が汚染されなければ良しとしている。
ではなぜ今になって土壌汚染が脚光を浴びるようになったのであろうか?この辺の詳細は小生も勉強不足で事の前後が明確ではないが、まず第一に地下水汚染があげられる。地下水汚染はかなり前から日本各地で問題となっていたのであるが、根本的な原因解明と対策は講じられていなかった。しかし、徐々に研究が進むにつれ、土壌の汚染が原因で地下水汚染されるケースが多々あることが判明してきた。第二にVOC(揮発性有機塩素化合物)の問題である。20年も前には洗浄剤として使用を推奨されていたVOCの有毒性が近年重要視され、これによる土壌汚染が多い事が判明したのである。さらには過去には闇から闇へ葬っていた油汚染(油汚染は余程ひどい物でない限り数年放置すれば表面上は分からなくなる)まで問題視されるようになってきた。これらが総合的に作用して土壌汚染への関心が高まったと小生は考えている。

3.土壌の浄化技術
大気の汚染対策は、発生源を抑えることに尽きる。自動車や工場の排気が大きな汚染源であるため、測定技術の他には、これらからの排出を如何に少なくするかということが研究の課題であった。近年では光触媒を用いて大気中の汚染物質を酸化無害化する研究がなされているが、浄化技術としてはこれくらいだと思う。結果として燃焼機関と焼却炉の排ガス対策、バグフィルタなどに研究が集中している。
水質汚濁対策は大気とは全く反対に、如何に水中に含まれる有害物を除去するかに焦点が合わせられている。有機物であれば生物学的処理が定番であり、重金属などの場合には含有物に合わせた除去手法が開発されている。イオン化したものなら不溶化させて沈殿ろ過かイオン交換か活性炭吸着。金属として存在するならろ過といったところである。油分は浮上分離した後、残分はpH調整して凝集沈殿か生物学的処理を行う。
それでは土壌汚染の場合はどうするのであろうか?土壌は既に汚染されてしまったものを対象にするため、大気のように出口で抑えることは出来ない。では水のように浄化しているのであろうか?

まずVOCでは、吸引や曝気によりVOCを取り出し、活性炭吸着または微生物分解を実施する。活性炭や曝気装置は水質浄化に用いられている定番製品であり、VOCの取り出しを如何に効率よく行うかがノウハウとなる。
重金属においては、土を細かく粒子サイズまで分散させ、比重分離をかけるか分級分離する。比重分離は砂土と重金属の比重がそんなに大きくは異ならないので、効率はあまり上がらない。これに対し分級分離は粒子の大きさだけで分離する方法で簡単な上に作業が早い。粒径で分離するわけであるが、重金属は大抵微粒子となっており、細粒分の方にほとんど分離されてしまうといった性質がある。ちなみに細粒分に含まれないような大きな重金属は比重分離で容易に分離できるので、両者を組み合わせることにより、ある程度まで分離は容易に出来る。結果として大半の土はきれいになるのだが、高濃度の重金属を含有する細粒分は不溶化埋め立て処理することとなり、汚染土壌を少なくしているが浄化してると言えるのか疑問が残る。
油については微生物分解が主流である。しかし微生物処理は時間が掛かる上に重い油の分解がほとんどできないため。このため他に水洗や加熱処理といった方法がある。加熱処理は熱を加えて油を蒸発させたり燃焼させたりする手法であるが、焼却炉のような装置に土を投入する訳なのでコストパフォーマンスは非常に悪い。他に手段がない場合や短時間での処理が必要な場合にしか採用されない。と言っても他に手段がないことが結構多いようである。水洗についてはミキサーや洗濯機の親玉のような装置に土を投入して、まさしく水で洗う方法である。大まかな油は容易に分離されて浮上してくる。この技術の肝は如何に細かい粒子内に紛れ込んだ油を取り出すかということである。

4.土壌浄化の現状
浄化目的は何か?
油→土の性状は砂が主か粘土質が主か?→粘土質が多いのなら廃棄または焼成。
砂が主であれば→汚染油は軽質油か重質油か?→軽質油ならバイオ処理。
重質油なら水洗。軽質油でも汚染レベルが高い場合には水洗。
重金属→水溶性か非水溶性か?→水溶性であれば水洗
→非水溶性であれば土の性状は砂が主か粘土質が主か?→砂が主であれば分級分離
→粘土質が主であれば廃棄かケミカル処理
VOC→揮発させて活性炭吸着または焼成

以上が粗々とした浄化手順となる。ちなみに従来多く行われてきた重金属の不溶化は浄化と認められなくなったため、今後は減少していくと思われる。

現在(2003年)の油浄化技術は、砂質の場合には、粗々としたところを水洗で取り、コンマ台以下の微量油については微生物処理するといった方向にある。もちろん濃度的に汚染が少なく軽質油の場合にはバイオだけで浄化することも可能である。水洗の場合には水洗だけで取り切れれば越したことはないが、実際に水洗処理を行っても油臭が残り、官能テストはNGとなるケースが多いと思われる。浄化を依頼する側の要望としては、残留濃度以外に官能テストで問題ないこととというものがあるためである。油の残留濃度が低いのに油臭がするという現象は、残留油の種類が影響していると思われる。油臭は揮発性の強い油ほど低濃度で感知される。揮発性の強い油というのは軽質油で、軽質油の浄化には微生物処理が有効であるし、単に放置しても自然に揮発して濃度が低下する。これに対し、水洗が有効なのは重質油である。重質油は揮発性が低く、微生物による分解速度が遅い。人間の臭覚は現存のどんなポータブル型検知器よりも検知限界が低く、高感度である。このため残留濃度と官能試験合格を浄化終了の判定に用いられると、水洗と微生物処理の組み合わせが望ましいと思われる。
油汚染した粘土質土壌の浄化は現在決め手がない。粘土は表面積が大きく油吸着能力が高いので、水洗をしても微細化した油が粘土に吸着されてしまい、分離できなくなってしまうのである。それではバイオでと考えても、粘土は空隙がほとんどないため土中に酸素や栄養塩分の供給が難しく、微生物の活動が活発化できない。結果として廃棄するか焼くか何れかに落ち着いてしまうが、廃棄は浄化を行っていないし、焼く方法はコスト高で敬遠されている。

重金属については、重金属の環境基準は含有量(土に含まれる量)と溶出量(水に溶け出す量)で定められているが、溶出量と含有量の基準値に大きな差があるため、浄化企業は色々考えることとなる。水溶性と非水溶性で扱いが異なってくるが、非水溶性の金属においては、もともと溶出成分がほとんどないので、分級分離で重金属を含む細粒分と含まれない土に分離し、含まれない土は浄化土、細粒分は産業廃棄物として処理される。物理的に処理できるため処置がイージーでコスト的にも優れているが、粘土質などの細かい土では廃棄量が多くて、全廃と大差なくなってしまう。
水溶性の金属では、よっぽど汚染の酷いサイト以外では、溶出成分を取り除けば浄化は終了する。短期間で溶出成分の除去が行えればベストなのだが、溶出というのはパッと無くなるようなものではない。そこで、次善の策として溶出成分を除去しつつ残分を不溶化出来る手法があればベターな訳である。あくまで溶出成分の浄化を行ったわけであるが、副次的に残分の不溶化が行えれば、それは浄化と認められるのである。しかし、この論法を確実にする為には少なくとも目に見える浄化効果が無くてはならないこととなり、この辺に浄化企業のノウハウがあるようである。

最後にVOCだが、実は筆者はこの件に関してあまり詳しくはない。だが、原理から考えると最終的には活性炭吸着か熱分解しか手段がないはずである。ここでは何処も同じなのだが、吸着や分解するために、如何に効率的にVOCを土や地下水から抽出するかが肝となる。ここでも粘土質土壌からの抽出に各社頭を悩ませているようである。

4’.土壌浄化の現状その後
2003年を終わって、土壌浄化の方向性は当初の想定からかなり異なる方向へ動いている。相変わらず土壌汚染対策の大多数は場外排出すなわち廃棄処分またはセメント原料という手法である。現在のこれら場外排出費用は少なくとも水洗工法と同等もしくはそれ以下である。結果としてリスクのない場外排出が多用される傾向にある。現在場外排出とコストで競合できるのはバイオだけと言っても過言でない。もっとも、それ以外に覆土といった過去に浄化手法ではないと酷評された処理方法が再びゾンビのように生き返ったらしいので、これが最も低コストではあるが。。。国の土壌汚染に対する姿勢は、その処理コストの大きさが明らかに成るに連れ、明らかにトーンダウンしており、浄化から周囲への悪影響の防止へ方向転換を行っているようである。